消費増税をめぐる2つのインチキ

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前に「消費者法ニュース」で連載をはじめさせていただくということをブログに書きましたが、連載掲載号が7月末に発行されます。消費者法ニュース編集部のご厚意で特別に事前にブログにアップするご許可をいただきましたので、私の自己紹介なども入っていますがそのまま転載します。
また、この機会に「消費者法ニュース」のご購読もよろしくお願いします。

1.消費増税についてご存知ですか?

まずクイズです。2019年10月に迫っている10%への消費税増税について、

Q1:消費増税は全額、社会保障の充実強化に使われるのでしょうか
Q2:政府によれば消費税は「景気の良し悪しに左右されにくく、税収が安定している」というのですが、「税収が安定している」ことはいいことだと思いますか

いかがでしょうか。答えは、

A1:事実ではありません。これまでも増税分の約2割しか社会保障の充実強化には使われていません
A2:私は「悪いこと」だと考えます。「税収が安定している」というのは不景気でも、また失業者や低所得者からも徴収できるという意味だからです。

今回は、この二つのクイズを切り口に、なぜ消費増税が特に低所得者にとって有害なのかご説明します。

2.金子洋一とはどんな人?

私は、大学を卒業して平成元(1989)年に当時の経済企画庁に入庁しました。現在の内閣府、消費者庁です。消費者契約法が作られたときには、消費者行政第一課、消費者企画課の課長補佐としてその根回しを担当して走り回りました。また、OECD(経済協力開発機構)CCP(消費者政策委員会)の副議長やOECD(経済協力開発機構)科学技術産業局のエコノミストとして、電子商取引に関する消費者保護ガイドラインの改訂作業に携わりました。いかに景気をよくするかということと消費者保護が私の国会議員としての専門分野です。

そして、霞が関の役人という身分では自由な発言ができないことに限界を感じ、平成15(2003)年に退職し、当時の民主党で政治活動に入りました。6年間の浪人生活を経てどうにか神奈川県選出の参議院議員として当選させていただきました。そして政権交代直後の 平成22(2010)年3 月に、旧・民主党内で「デフレ脱却議員連盟」を結成し、事務局長になりました。そこで「日銀による国債購入によって金融緩和を行い、年率 2~3%程度のインフレ目標を実現して景気回復とデフレからの脱却の実現」(リフレ政策)の採用を訴えました。同時に、党内の消費税論議では「消費増税を慎重に考える会」の事務局長として景気が悪くなると予想されるとき(すなわちデフレのとき)には消費増税を延期できるという「景気条項」を増税法案の中に入れることに党執行部や財務省の猛反対の中、なんとか成功しました。この景気条項を使って平成26(2014)年の総選挙の前に政府が消費税の再増税を延期したのでした。

このように「デフレから脱却しない間には決して増税させない」ということは私のライフワークです。

3.第1のウソ:実は消費増税は社会保障の充実強化に使われない

なぜ私はこのように消費増税に反対したのでしょうか。その理由の第一は、「消費増税が社会保障の充実強化に使われるのではない」からです。

 政府広報では、「社会保障と税の一体改革においては、消費税率の引上げによる増収分を、すべて社会保障の財源に充てます。」としきりに訴えています。この言葉を聴けば社会保障の予算額が増えると思うのが普通だと思います。確かに消費増税分はいったん全額社会保障の財源に割り当てられるのですが、その代わりにこれまで社会保障をまかなっていた財源(これは国債です)を無くすことになっているので、予算額は差し引き増税分の約2割しか増えないのです。ひどい話です。これが企業の広告なら消費者は確実に消費生活センターに走ることでしょう。

具体的に財務省「 社会保障・税一体改革について 」[1]  p.3をみてみましょう。

ここには「今回の一体改革の「税制抜本改革法案」による消費税率5%引上げは、社会保障の充実・安定化と財政健全化を同時に達成するものです。」とあり、続いて「消費税率5%の引上げ ⇒ 全額を社会保障の財源に 」とあります。ここはマスコミなどでもおなじみの内容です。

そこから先、まず、「社会保障の充実(待機児童解消、医療介護サービスの充実、低所得者対策など)2.7兆円程度 (消費税収1%程度)」とあります。この部分は社会保障の強化ですからいいのですが、この次が問題です。

「社会保障の安定化 ~今の社会保障制度を守る~10.8兆円程度 (消費税収4%程度)」とありますね。この「社会保障の安定化」というのがくせ者なのです。

ここを詳しく見ていきます。まず3番目の「○ 消費税率引上げに伴う社会保障支出の増 (0.8兆円程度)」は、税率引き上げにより政府への消費税支払いが増える分ですので、社会保障の充実とは本来まったく何の関係もありません。最初の「○ 年金国庫負担2分の1 (2.9兆円程度)」については、「年金交付国債」という言葉がミソです。これは基礎年金の国庫負担が2分の1に引き上げられたときに、その引き上げ分をまかなうために発行された一種の国債です。つまり、これまで国債で負担していたものを増税でまかなうということで、年金の支給額が増えるなどといった意味ではありません。ここも社会保障の充実、すなわち社会保障予算の増額とは関係ありません。

さらに2番目の「○ 後代への負担のつけ回しの軽減 (7.0兆円程度)」について、ここの「安定財源が確保できていない」という言葉は、意味が判りにくいのですが「毎年国会の議決が必要な国債でまかなわれている」という意味です。つまり、財源を国債から消費増税分に置き換えるという意味で、これも予算の増額とは何の関係もありません。

表を注意深く読まなければ分からないのですが、5%の消費増税による増収分13.5兆円のうち、社会保障にまわるのは増税分の2割の2.7兆円程度に過ぎず、8割の10.8兆円程度は財政再建にまわしてしまうのです。ここで打ち出された消費増税は、社会保障給付などのうち「財源がなくて赤字国債で調達していた分を、消費税の調達に切り替えること」が主な目的です。このように、「社会保障と税の一体改革」と一見すばらしい名前をつけながら、霞が関行政に不慣れな素人にはわからない表現(霞が関文学)を使って、行っていることは詐欺まがいです。

「全額を社会保障の財源に」という表現がいかに国民に勘違いをさせるものであるのか、ミスリーディングであるのかがお分かりいただけたと思います。

政府・財務省が今のわが国が財政危機であるとあおっていることはよくご存知だと思います。もし本当に財政危機にあるならば財政再建をしなければならないことは当然でしょう。しかし、実際はまだまだ財政に余裕はあり、教育・子育て、福祉など生活に密着した分野でのむやみやたらな財政カットの弊害の方が大きいのです。このあたりのことは今後の連載で詳しくご説明します。

これまでどおり国債を発行して、手元に現預金をうなるほど持っている企業や富裕層に買ってもらえばいいのです。なぜ増税の中でも特に副作用が大きな消費増税をしなければならないのでしょうか。労働者は私生活を犠牲にして働いています。その労働者の年金・福祉の財源負担を史上空前の高い収益をあげている企業にさせてなぜいけないのでしょうか

4.第2のウソ:安定財源であるとは「鬼の取立て」のことだった

ここまで、消費増税のうち、社会保障の充実強化に使われるのはわずかに2割に過ぎないことをご説明してきました。次のウソは、「消費税は安定財源」というウソです。副作用が特に低所得者層に集中するのです。

政府広報オンライン[2]では、

「なぜ消費税なの?

・景気や人口構成の変化に左右されにくく、税収が安定している

・働く世代など特定の人に負担が集中することなく、経済活動に中立的

・高い財源調達力がある

⇒社会保障の財源を調達する手段としてふさわしい税金です」

とあります。

「税収が安定している」、そして「高い財源調達力がある」というのは徴税する側からみれば事実ですが、これもまた国民に重大なことを隠しています。

ビルトインスタビライザーという言葉をご存知だと思います。失業者が増えれば自動的に給付が増える失業保険や、景気が悪くなって所得が落ちれば税率が下がる累進課税のように、景気の動きに逆らい、景気の動きを緩やかにする仕組みをさします。こうした仕組みは景気が悪くなれば政府がお金をよりたくさん使い、苦境に陥った国民を救うことに意義があります。一方で消費税の「税収が安定している」というのは、税金を納める国民の側から見れば、景気が急激に悪化しても、これまでと同じにがっつりと税金を巻き上げていくという意味に他なりません。言葉を変えれば「鬼の取り立て」という意味です。特に景気の悪化でまず犠牲になるのは低所得者です。だからこそ私は消費増税に反対しているのです。「高い財源調達力がある」という言葉も、はからずも税金を取る側の本音を表す言葉です。

また、「経済活動に中立的」という表現は、本来、課税しても「経済活動に影響が及ばない」という意味なのですが、これも事実と異なります。平成26(2014)年の消費増税によって、経済的な将来不安が起き、人々がお金を使わなくなってしまいました。増税から2年以上がたった今も、消費は増税以前の水準に戻っていません。これ以上の経済への悪影響はありえません。

こうした論点や、比率でいえば低所得者層には負担が重く、高所得者層には軽い消費税そのものの逆進性などについては次回ご説明することにします。

5.消費税は消費へのペナルティー

そもそも消費税は、お金を使うたびに消費者が負担するもので、消費に対するペナルティーです。企業もとりあえずは負担しますが、最終的に負担を消費者に転嫁します

平成6(1994)年、細川首相が当時3%だった消費税を「国民福祉税」とネーミングを変えて税率を7%に引き上げようとしましたが、国民にその意図を見破られ退陣を余儀なくされました。増税の口実を福祉とか社会保障とか言えば世論も納得するだろうという霞が関の浅知恵に乗せられてはいけません。低所得者層に対して過大な負担を強いる今のやり方での消費増税は格差拡大や国全体の貧困化につながります。止めなければなりません。

(「消費者法ニュース」 平成30(2018)年7月発行号寄稿を改訂)


(追記)文中で指摘したように消費増税について今まで政府は、政府広報などでも「全額社会保障に使う」といい続けていました。これに対して、「本当の使い道は財政再建が中心なので誇大広告だ」と当時から私は批判していました。この原稿完成後に、政府公表資料の「骨太の方針」のP.49に、「(消費増税分のうち)従来は5分の1を社会保障の充実に使い、残り5分の4を財政再建に使うこととしていた」という記述が出てしまい、政府自身がとうとう消費増税は財政再建中心の増税だったと白状してしまいました。

[1] https://www.mof.go.jp/comprehensive_reform/gaiyou.pdf

[2] https://www.gov-online.go.jp/tokusyu/syaho/naze/syushi.html