映画『シッコ Sicko』と米国の医療制度

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「華氏911」で時の政権を批判し、ブッシュ大統領の政敵となったマイケル・ムーア監督の最新映画が『シッコ Sicko』です。

2002年の映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』で銃問題を取り上げ、カンヌ映画祭特別賞を受賞し、続いて2004年の作品『華氏911』で、ブッシュ政権を批判し、パルム・ドール最高賞を受賞したマイケル・ムーア監督ですが、今回の作品のテーマは米国における医療制度です。いわば「米国医療残酷物語」といった作品です。

《事故で指をなくした人が、病院に行ったが保険がないので多額の医療費を請求され、2本のうち1本しか元に戻すことができなかった話や、緊急で運ばれた病人が保険に入っていないという理由で投げだされたところを隠しカメラで捉え、アメリカの医療現場がどんな事態になっているのかを映している。》 《40度の高熱を出した乳幼児が、保険に入っていないという理由で治療を受けられないという実体など涙をそそる場面も。 》(【カンヌ映画祭2007】銃問題の次は、医療制度!マイケル・ムーア最新映画『シッコ』公式記者会見

私はアメリカに住んだ経験はないのですが、国民皆(公的)保険の日本と違って米国では、基本的には私的保険が中心になっています。

私的な保険は、当然、資格審査や掛け金の面で貧困者には厳しいものとなります。そのため、私的保険に入ることのできない高齢者を対象にしたメディケアという制度や、貧困層を対象としたメディケイドという制度がありますが、ともに適用範囲が狭く、貧困者は一度病気になれば明日をもしれぬ生活を強いられます。また、治療の単価自体も『シッコ Sicko』で描写されているように大変に高いようです。

米国の医療の技術は大変に高く、例えば歯科治療では日本など足下にも及ばないという話を聞いたことがあります。日本では何日も通院しなければならない虫歯の治療が向こうでは1回か2回で終わってしまうとか。多少の強調はあっても、おそらく日本より米国の技術が進んでいることは確かでしょう。また、臓器移植のような技術でも我が国よりもずっと進んでいるという印象があります。

しかし、惜しむらくは社会的な仕組みが米国では未成熟です。国民全体をカバーする保険制度を作ることに特に富裕層を中心とした共和党支持者などが反対しているのです。制度としての民主主義はとりあえず担保されていますが、国民の一体感がありません。その点、日本や欧州諸国とは、制度もその運用も違います。

一方で、欧州諸国でも医療制度は見直しが必要になっています。例えば、私が滞在した10年ちょっと前の英国では、国民皆保険制度が確立されており、NHSという制度の下、極めて安価で医療を受けられる建前でしたが、実際にはNHSの制度を使おうとすると治療の予約が1ヶ月先でないと取れないとか、受けられる治療が限られているとか、それなりに不都合がありました。また、私のような一時滞在者に対しては、「あまりNHSでの治療をしたくないのだ」と医師から直接言われました。もちろん自費診療を使えばもっと早く手厚い治療を受けることができましたし、それほど値段も張らなかったのでしたが、NHS制度自体さまざまな見直しが必要な制度末期という感じでした。(5年前に滞在したフランスではOECD職員という位置づけでしたからきちんとした保険が適用になり何の不自由もありませんでした。)

日本では、戦時中の総動員体制の副産物として幸いなことに国民皆保険の仕組みが作られました。その後も国民医療費の高騰という問題はあるものの、米国のような問題はありません。しかし、本人負担が3割であり、また老人医療の問題も重くのしかかったままです。これから日本の医療制度のめざすところがどの辺にあるのか、個人的には今の日本の制度の延長線上に進むしかないように思えますが、なにか妙案はないでしょうか。

いま、厚生労働省の社会保険庁の改革の必要性が語られています。今は、マスコミにも取り上げられることは少ないのですが、我が国の医療保険制度にもそれに負けず劣らず政策イシューとしての重要性があると思います。少なくともマイケル・ムーア監督の映画に取り上げられるような「日本医療残酷物語」が今後生み出されないことを期待します。

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