国家公務員制度改革とプリンシパル-エージェント問題

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・国家公務員制度改革の現状
新しい行政課題への対応として公務員制度改革が求められている。特に、幹部公務員の他省庁からの公募や民間からの任用や、I種職員の一括採用などの手法が有効になるであろう。

ところが現在の議論は与野党を問わず「天下りの禁止」問題に限定されている感がある。また、公務員バッシングの一環として、公務員の労働環境や賃金は悪ければ悪いほどよいとの感情的な論もみられる。

政府与党は、先の通常国会で、出身省庁による国家公務員の再就職あっせんを全面禁止し、「官民人材交流センター」(新・人材バンク)に一元化することを柱とする改正国家公務員法を成立させている。また、7月24日には、「公務員制度改革の全体像を検討する有識者懇談会」の初会合を首相官邸で開き、今後、官民人材交流センターのあり方などを検討し11月に報告書を取りまとめることとしている。

また、一部新聞報道によれば、民主党は通常国会に提出し、否決された法案と同じ内容の法案を提出する方針である。その内容は政府案と比較して、天下りに厳しい規制をかけたものである。

民主党案では、天下りに国が一切関与しない方向性を打ち出している。その内容は、天下りについて、退職後五年間は全面禁止し、管理職以上は退職後十年以内の再就職先を届け出ることによって、事後的な監視態勢をつくることをめざしている。これに対して、政府与党は、参議院の新勢力分布に鑑み「I種職員を対象とした勧奨退職を禁止する」、「新・人材バンク構想を廃止する」、「独立行政法人の職員をも天下り規制の対象にくわえる」等については、民主党案に歩み寄る模様である。

また、日本経団連は、中途採用の拡大など官民間の雇用の流動性を高め、処遇面における官民格差を是正することなど国家公務員の身分保障を見直し、同時に、公務への競争原理の導入を行うべきであるとの提言を行った。

・プリンシパル-エージェント問題としての公務員制度改革
では、これら従来の公務員制度改革に欠けている視点はなんだろうか。公務員を抵抗勢力視し、スケープゴートとする手法は、郵政民営化や道路公団民営化に取り組んだ小泉前首相の常套手段であったが、国民と公務員の関係の本質は、執務に関する情報が非対称的であることからプリンシパル-エージェント問題として捉える必要がある。

この観点からは、現在の国家公務員においては、最近の例でも明らかなように、なにをやっても免職とならないという長期安定雇用から自己規律を失うこと(モラルハザード)が生じ、また、職員の中で市場性があるものほど早く中途退職してしまい、市場性に乏しいものが残るという「逆選択」が生じている可能性が指摘できる。

今回の公務員制度改革の端緒となったのは、頻発する官製談合であった。これはプリンシパルたる「国民」の目からすれば、エージェントである「公務員相当の労働者」に対するモニタリングが極めて難しいことから生じた問題である。

これに対する処方箋としては、プリンシパル-エージェント問題の視点からは、政権交代による政治任用や公募制などで上司が交代する可能性を増大させること、公務員の裁量権を限定することや世論や国会などによるモニタリングを強化することがもっとも適した対処法である。しかし、それ以外の公務員制度一般をこれからの時代の要求に合わせるためには、さまざまな論点がこれ以外に生まれてくる。

・これからの公務員制度とインセンティブ問題
上記以外に必要な施策としては、情報の非対称性を前提とした上で公務員の労働インセンティブを増大させる方策を見つけることがあげられる。これについては、定年制延長や専門スタッフ職の創設が有用であると考えられる。

一方で、能力主義、成果主義の更なる導入は、公募の対象になるような幹部公務員以外には、能力や成果の計測が難しいことから、実際上は効果に乏しい恐れがある。単に、9時から5時まで机についていれば働いたとみなすわけにはいかないことはいうまでもない。また、計測が容易な仕事にのみ注力するモラルハザードを助長する可能性すらある。

また、公務員に対する正当な処遇も必要である。今後の政府のあり方は、カネの流れ以外の面では、「市場化テスト」に合格した業務のみに限定する小さな政府的なものを目指していく必要がある。また、赤字の補填などは政府が行うにしても、公務員が実際の作業に当たる必然性はないことから、公企業の民営化も当然可能である。

そうなれば、特に国家公務員の業務は、今までより以上に公務のみに純化されていき、(例えば、民間でも可能なサービスを提供する官庁エコノミストなどという存在は死滅する可能性がある。)、その結果、公務員の業務として残る仕事は、国の予算作成、国会対応や与野党への根回しといった仕事が中心となり、必然的にそのノウハウには市場性がなくなっていく。同時に、市場化テスト後の政府によるサービスの供給には、競争圧力が働きにくいことから、民間の基準で計った場合の効率性を追求しつつ公務を行うことは原理的に困難となる。政府与党の構想による官民人材交流センターは、再就職の際に、公務員をいわば民間基準での評価によって再配分する機構であるが、上述の理由から十分に機能しないものと思われる。

特に、賃金については、現在の制度では、原則的に失業の可能性がない公務員と、失業の可能性を抱えている民間企業労働者の間には、給与水準において失業のリスクプレミアムを上乗せすることについては、それ自体は合理的ではある。

しかし、今後の日本の労働環境は、一層流動化していき、短期的に見ても労働の限界生産性と賃金を一致させるものとなっていくと考えられる。そうなれば、現在の国家公務員制度を前提と考えれば、市場性がなく、公務員としてのみ有効なノウハウの修得に励まなければならない国家公務員という業界に将来有為の若い人材に入ってきてもらうためには、長期安定雇用を提供するか、あるいは民間企業と比較して魅力ある労働環境を提供するかなどの、それ相応の処遇が必要になってしまう。そうしなければまともな人材が国家公務員という職業を選択しなくなるであろう。

いかにすばらしい制度を設計しても、実際に運用できなければ意味がない。今回の公務員制度改革についていえば、新しい制度の下で喜んでまた誠実に働く人が出てきてはじめて改革としてなりたつ。ここまで書いてきたプリンシパル-エージェント問題からの視点は、決してどういう制度を作るべきかを一義的に規定はしないが、いかなる改革でもこの条件を満たさなければ決して維持可能な改革にならないという条件がどのようなものであるのかについて教えてくれるのである。果たして今後の国家公務員制度改革がこうした条件にかなうものとなるのかどうか、期待しつつ注目したい。

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