景気や雇用を守ることは日銀の政策目的ではない?

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以前のエントリーで、景気や雇用を守ることは日銀の政策目的ではありません。と書きました。このことについて「景気や雇用を守ることが日銀の政策目的ではないというのはどういうことか、もう少し詳しく説明してほしい」というご要望をいただきました。

この日銀の件とは、少し様子が違いますが、前のエントリー会社法:「目的」がない法律で、会社法では、法律の目的が明確に定義されていないことを書きましたが、そのことと同じような弊害をもたらす側面があるのではないかと思いますので、今回は、米国の中央銀行に当たる連邦準備制度(FED)の設置法である連邦準備法や欧州中央銀行をめぐる状況と比較しながら、日銀法を取り上げて、日銀法で定義される目的について少し考えてみたいと思います。

まずは、日銀法からみてみましょう。

日本銀行法(平成9年法律第89号)
(目的)
第1条 日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする。
2 日本銀行は、前項に規定するもののほか、銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資することを目的とする。
(通貨及び金融の調節の理念)
第2条 日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。

一読してまず気がつくのは、普通、中央銀行に求めるであろう機能のうち、国内の銀行を守り育てていく「銀行業界に対する行政」と、例えば戦後の日本が体験したようなインフレに陥らないようにする「物価の安定」は含まれているが、やはり「景気」とか「雇用」とかいう文言は入っていないことです。 はたしてこれは他の中央銀行でもそうでしょうか。米国の連邦準備制度の設置法である連邦準備法を例にとれば、

《FEDERAL RESERVE ACT
SECTION 2A―Monetary Policy Objectives
The Board of Governors of the Federal Reserve System and the Federal Open Market Committee shall maintain long run growth of the monetary and credit aggregates commensurate with the economy’s long run potential to increase production, so as to promote effectively the goals of maximum employment, stable prices, and moderate long-term interest rates.
連邦準備制度法
セクション2A 金融政策の目的
連邦準備制度理事会と連邦公開市場委員会(FOMC)は、雇用の最大化、安定した一般物価および中庸な長期金利の達成を効率的に実現することを目的とし、我が国経済の成長の長期的な潜在能力に見合った通貨と与信の総計の長期的な増加を維持するものとする。》
FRB: Federal Reserve Act: Section 2A

このように、「雇用の最大化、安定した一般物価および中庸な長期金利の達成」の3つが目的とされています。連邦準備制度については、別の項目で「銀行業界に対する行政」についてはふれていますので、日銀と連邦準備制度という二つの中央銀行を比較するとやはり「雇用の最大化(=景気を良くすること)」が目的となっているのかいないのかが大きな違いとなっています。 また、EUの中央銀行である、欧州中央銀行(ECB)については、その設置については欧州条約の中で規定されています。

さて、当の欧州条約の第2条の冒頭は次のようになっています。

  《The Union shall set itself the following objectives: – to promote economic and social progress and a high level of employment and to achieve balanced and sustainable development,(後略)
EU連合は以下の目的を持つものとする。-経済と社会の進歩と高いレベルの雇用を促進し、バランスがとれ持続可能な成長を達成すること、(後略)》
CONSOLIDATED VERSION OF THE TREATY ON EUROPEAN UNION

ECBはEU域内の一公的機関として、この条項に縛られることは自明です。EU通貨統合に参加していない英国にはまだ中央銀行がありますが、それまでの通貨を捨てユーロ圏に入ったドイツ、フランス、イタリアなどは中央銀行を持っていないのです。さまざまな地域に一律に金融政策は効いてきますから、本来ならさまざまな政策目的に手を出したくないというのがECBの本音だろうと思いますが、EU条約に規定がある以上無視するわけにはいかないはずです。 雇用を守ることは、経済政策の最重要課題です。我々国民の生活に直接かかわってくることでもあり、また、いわば景気上昇の最終のエンジンともなります。また、雇用には、大きな外部性があります。ニートやフリーターの問題が、なみの経済問題よりもはるかに重要であるのはこの意味からです。こういった理由で雇用問題は政府のもっとも重要な問題として扱う必要があります。

こうなってくると日本銀行が「雇用」に対する配慮をする規定がないことは、これだけの経済規模を持つ国の中央銀行としては珍しいことがわかります。そして、雇用に配慮せずにひたすら銀行業界の保護や物価の安定だけに専念していることが現在の日本のデフレを長引かせている要因であることはいうまでもないことでしょう。

しかし、日本銀行側にもこれには一見正当な言い分がありそうです。つまり、「設置法である日銀法を作ったのは国会であり日銀ではない。日銀は日銀法に忠実に業務を執行するしかないのだ」と。もし彼らがそういうのならば答えもきわめてシンプルです。「では、日銀法を改正しましょうか?」

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