中華人民共和国の農村部の過剰人口が底をついた

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胡錦濤中華人民共和国国家主席の帰国直後に四川・チベット大地震がありました。中華人民共和国の国民、特に(チベットはもちろん漢族についても)被災地域の皆さんにはこころからお見舞い申し上げたいと思います。あの国の政府・与党は大嫌いですが、被災された国民には同情を禁じ得ません。(ほんの些少ですが貧者の一灯でカンパもさせていただきました。)

さて、マスコミもその問題に忙殺されてしまっているようですが、訪日からこの方の論調を見ていてもまったく触れられていなかったことが、日中間のパワーバランスが確実に変化してきたということでした。

日中間のパワーバランスなどと書くと、「中華人民共和国のGDPが(購買力平価による為替レート換算で)日本を追い抜く」といったことを連想される方もいるかもしれません。しかしそれは本質的な問題ではありません。というよりも今、私が考えていることはむしろ逆のことです。

以前、

《そもそも現在の中華人民共和国の経済成長は、我が国の高度成長期と同様に、農村部からの過剰人口が工業分野で労働力と化しているという一度経過すれば再現不可能な現象と、人民元の将来の値上がり期待による外国からの過大な投資によるところがほとんどだろうと考えています。農村部の過剰人口が解消されたり、米国や日本で第二次世界大戦直後に生まれたベビーブーマー達が貯蓄や年金を取り崩し始めて、世界的な資金不足が生じれば、たちまち成長に急ブレーキがかかることに疑いはありません。》(インド、中距離弾道ミサイル実験成功で中国を射程距離内に)

と書きました。今回は、以上の問題意識の延長線上の事柄について書きます。 中華人民共和国政府は、最近、人民元高を容認しつつあります。このことは「自国の最大の武器であった過剰労働力が枯渇したことを認めたこと」であり、これは従来の中華人民共和国の最大のポイントが失われたことを意味しています。そして、このポジションの悪化を交渉材料として使えなかった我が国政府と与党の対応は極めてつたないものであったといえます。このブログの更新も前回から2ヶ月近く経ってしまいましたが、何回かに分けてしばらくは、我が国の隣国の問題について考えてみたいと思います。

まず第一の論点は、過剰人口の問題です。
農村部の過剰人口は中華人民共和国の経済成長のいわば燃料でした

中華人民共和国の農民一人当たりの耕地面積は日本以下であり、逆に農地面積からみれば、人口が多すぎるわけです。この多すぎる労働力は実際はきわめて生産性が低く、特に開発経済学の観点からは、これらの労働力を過剰人口とよびます。

農業の生産が伸びないのですから、当然、彼らは、農村にいても稼ぎが増えない。それでも生存のためには食料などが必要ですから、国全体で見ればまったく非効率な状態にあります。国からすれば、どんなに彼らが生産性が低くても、農業で働いているよりも生産性が少しでも高ければそこで働いてもらえば都合がいい。逆に、彼ら過剰といわれている人々にとっては、いくら賃金が安くても、待遇が悪くても仕事があれば喜んで働きに出ます。具体的にはそれが上海などの大陸沿海部の工場です。

中華人民共和国では、農村部の国民は農村戸籍しか持てず、都会の人間と決定的に差別されています。これ自体中華人民共和国が現代に生き残る最大の帝国であることの有力な証拠です。そして、都会での生活は農村戸籍しか持たない彼らにとって、教育も福祉もなにもかも厳しいものですが、それでも喜んで出稼ぎにいく。

なにもかもの根本的な原因は農村部の低い労働生産性です。最近の中華人民共和国の政策は農村の生活改善に力を入れはじめたとされています。それが、農業での労働生産力の向上につながればなおのこと農村部の過剰人口がなくなる方に作用しますし、生産性向上抜きで生活のみが改善されるようなことが起きたとしたならばそれは沿海部からの所得移転に過ぎません。

繰り返しになりますが、中華人民共和国全体を考えれば、この過剰と計算されている部分の人々には、何とかして働いてもらって、いくらでもいいから稼いでもらいたい。これが従来の中華人民共和国政府の考え方だったのだろうと思います。

実はこの考えこそが、数年前までの人民元安を支えた大きな理屈付けでした。なぜなら、経済のロジックからすれば、自国の通貨が安いということは、国内の労働力が安く輸出されてしまうことを意味します。ということは人民元が実勢よりも低いことは、本来あるべき数量よりも過剰に輸出が行われてしまうということになります。これは日本のような普通の経済にとっては損失が大きいものになります。つまり、労働力が本来あるべき価格よりも安く海外に輸出されていることになるからです。外部から見れば、労働力のダンピングが行われていると感じるかもしれません。

しかし、中華人民共和国の経済の場合には、安く輸出されているのは本来ならばまったく有効に活用されなかったはずの農村部の過剰人口です。これならば、政府から見ればいくら人民元が安く維持されていても問題はないどころか、歓迎すべきことです。それで喉から手が出るほどほしい外貨が稼げるのですから。「人民に農村でプラプラされているよりも、いくら劣悪な労働環境であっても、低賃金であっても都会の工場で働いてもらった方がいい」というのが中華人民共和国政府の本音だったわけです。

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