秋も深まり、もみじの葉が黄金色に変わる頃となりました。落ち着いた季節とは裏腹に、20日から臨時国会が始まり、慌ただしい日々を送っています。
さて、「特定失踪者」という言葉をご存知でしょうか。北朝鮮によって拉致された可能性があると、民間の支援団体「特定失踪者問題調査会」(荒木和博代表)が調査の結果、結論付けた方々です。今回のメルマガでこのことをご紹介しようと思ったのは、先日、特定失踪者の一人である生島孝子さんのお姉様・生島馨子さんとともに特定失踪者に対する政府の取組強化の陳情を松原仁拉致問題担当副大臣に対して行ったためです。
日本人拉致問題について簡単に振り返っておきたいと思います。皆さんもご記憶にあると思いますが、平成14(2002)年9月、北朝鮮の金正日・労働党総書記が初めて日本人に対する拉致を認め、翌月拉致被害者5名の帰国が実現しました。5名のご家族については、2年後の平成16年に帰国あるいは一時帰国されています。
この5名のほかに、日本政府が正式に拉致被害者と認定している方が12名おられますが、救出のための日朝交渉は残念ながらその後進展していません。平成20年6月の日朝実務者協議で北朝鮮側は再調査を約束したものの、同年9月に突然、調査の見合わせを一方的に通告してきた経緯もあります。
実は、認定被害者以外にも、拉致の可能性があるとされる特定失踪者は約450名にものぼります。そのうち生島孝子さんをはじめとする73名はその可能性が濃厚とみられているのです。しかし、こうした特定失踪者は政府認定ではないために、情報収集など様々な面で救出活動が十分とはいえないのが実情です。
生島孝子さんは、昭和47(1972)年11月、東京・渋谷のアパートを出てから突然、姿が見えなくなりました。当時31歳で電話交換手をしており、部屋の片隅には翌日の仕事に着ていく洋服がきちんと畳んで置かれていたそうです。行方不明になった次の日、知らない男の声で「今さら仕方がないだろ」と電話があったのも不気味です。姉の生島馨子さんはそれ以来39年間、懸命に孝子さんを捜していますが、生死すら分かりません。
私は、昨年9月に大学生約40人が自主的に結成した「北朝鮮に拉致された生島孝子さんを奪還する学生の会」(帝京大学の野木大史さん代表)の顧問になっており、集会にも何度か参加していますが、小柄な馨子さんが必死に訴える姿を拝見するたびに胸が締め付けられる思いをしています。その馨子さんも70歳を越えました。先日、議員会館でお会いした際には、「私が元気なうちに、何とか妹を救い出したい」と祈るように話されました。
政府が特定失踪者を拉致被害者として認定することに二の足を踏んでいるのには、訳があります。「事実関係が不確定のまま認定の枠を広げ、その後、無関係だったことが判明した場合、北朝鮮側が日本の捜査能力を疑う格好の口実を与えてしまい、日朝交渉に悪影響を与える」というのです。理屈として判らないわけではありません。とはいっても異国で故郷をしのびながら暮らしているであろう被害者、愛する人を突然奪われたご家族を放っておくことは決してできません。
野田内閣で拉致問題担当副大臣に就任した松原仁衆議院議員に要請を行ったのは今月17日のことです。松原副大臣は、デフレ脱却議連の会長でもあり、また、超党派でつくる拉致議連の当初からのメンバーで、拉致被害関係者から最も信頼されている国会議員の一人です。国土交通副大臣ながら異例の人事で拉致担当の兼務を命ぜられたことで分かるように、野田佳彦総理も全幅の信頼を置いておられます。
松原副大臣からは、「政府認定枠の緩和は今すぐには難しいが、なんらかの民間だが公的な性格を持つ機関に認定措置をとってもらえば政府も動きやすくなる」との提案をいただきました。後に馨子さんから、「今後の心構えができました」と丁寧な御礼の手紙をちょうだいした時には、不覚にも文字が涙で滲んでしまいました。
北朝鮮による拉致は、人道的な問題であるとともに、日本の国家主権を侵す重大な犯罪です。断固として許すわけにはいきません。一方で、政権交代以降の政府の取組が万全だったとは、私も思いません。菅直人総理(当時)が辞任直前に、凍結していた朝鮮学校に対する高校無償化適用の審査手続きを再開するよう指示するなど、拉致被害者のご家族にとってみれば「裏切り」と感じざるをえないこともありました。
国民世論の拉致問題への関心が薄れてきているのも懸念材料です。平成22年度の内閣府による「外交に関する世論調査」では、北朝鮮について日本人拉致問題を関心事項として挙げた人の割合が83.0%と、5年前の87.6%から4.6ポイントも下落しています。
野田総理は、今年9月の初の所信表明演説で、国の責任として「すべての拉致被害者」の帰国に向けて全力を尽くすと述べ、国連総会でも各国に協力を呼びかけておられます。また、拉致被害者家族会との面会で、自ら北朝鮮に行って交渉する覚悟を言明されたのは、心強いことです。
私は保守政治家としての野田総理の決意を信じます。そして、国会議員としてしっかり後押しするとともに、事件を風化させず、拉致された方々が一刻も早くご家族との再会を果たせるよう、誠心誠意、力を尽くしてまいります。





