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2010年08月05日       

クルーグマンの日銀批判

 ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン・プリンストン大学教授に対するインタビュー記事が、週刊現代8月14日号に「P・クルーグマン『間違いだらけの日本経済:考え方がダメ』」として掲載されています。

 最近、クルーグマンが日銀を擁護しているなどと主張をする方々が、現実の経済を見つめる能力のない学者やジャーナリストを中心に存在するようですが、どのような下心をもって行っているのかよく判りませんがそんな暴論を一発で吹き飛ばす内容です。この中から、日本経済に直接関連する部分を取り上げ、コメントを加えます。私が執筆を担当しましたデフレ脱却議員連盟の新しい政策提言の内容の裏付けとしても読んでいただければと思います。

 まず日本経済の概況についてですが、

  《日本は、アメリカよりも深刻な不況に直面しているということを、理解すべきです。》
として、
  《景気回復よりも財政赤字の解消を優先すれば、デフレ・スパイラルを加速させるだけです。だから増税は日本銀行がインフレ・ターゲット(目標として掲げる物価上昇率)を設定して、その効果が見えてきた後で始めればいい。
とのべ、法人税については、
  《今の税率が歳入や景気に悪影響を及ぼしているという確たる証拠がない以上、それほど重要な問題だとは考えていません》
としています。この見方に私は100%賛成です。なお、私が最近は法人税の引き下げに特にこだわっていないことは、私のブログを「法人税」で検索していただければおわかりいただけると思います。

 また、

  《実は、日本の不況の原因は、マクロ経済学がやるべきだと説いていることを実行しないことにあるのです。》
として、大型の財政刺激策と、「日銀自体にやる気がないので大変難しいことですが」と前置きして、インフレターゲット政策の採用を提言しています。クルーグマンの方が以前から財政政策に力点を置いている点で少々デフレ脱却議連提言と違うのかもしれません。インフレターゲット政策の採用に際しての障害については、クルーグマンは、ハイパーインフレとデフレとの二者択一しか考えられない人々の反対や、日銀自体の反対をあげています。
  《自分の組織上の地位や、組織そのものを守ろうとしている。中央銀行の独立性への介入に関しては、もはやあれこれ躊躇すべきではありません。日本のGDPデフレーター(名目GDPを実質GDPで割った値。経済全体の物価動向を示す)は、ここ13年間、下がりっぱなしです。それなのに今、日銀が重い腰を上げないというのなら、(その責任者たる総裁は)銃殺に処すべきです。》
と厳しく批判をしています。ただ我々は中央銀行の独立性とガバナンス強化の手段としてインフレターゲット政策の導入を唱えていますので、そのあたり少々ニュアンスの違いはあるのかな、という気もします。いずれにせよ大きな隔たりはありません。

  《緩やかなインフレを拒否し、銀行のバランスシート保護を優先しようとする日銀の考え方は、まったく正気とは思えません。》
 わがデフレ脱却議員連盟の新しい政策提言では、銃殺までは提案しておりません(笑)が、説明責任は厳しく求めておりますし、全体としてクルーグマンのお眼鏡にかなうのではないかなと思います。

 なお、日本の財政については、

  《日本の場合、もし本当にインフレが始まったら、債務の問題の大部分は解決します。》
  《自国通貨を有する先進国である以上、先の三国(金子注:米国、日本、英国のこと)はきわめて低利の借款が可能です。財政再建を今の時期、まったく急ぐ必要はない。(中略)だからといって、日銀がデフレを放置することは許されない。》
としております。

 結びとして、

  《まずは、インフレ・ターゲット政策を実行してデフレの流れを止め、景気を回復させる。その結果で議論の決着を付ければいいのです。》
と、これもまた、私の日頃からの主張と同様の内容になっております。もちろん、景気が中長期的な成長軌道に乗ってからはさまざまな政策をとることも可能になりますが、まずはデフレ脱却が最優先の課題であることは自明であると考えています。

 いささか、我田引水な引用だと思われるでしょうか?そう思われる方はぜひ、現在発売中の全文に直接当たってみていただきたいと思います。

 我々の政策提言公開とタイミングよく掲載されたこのクルーグマンのインタビューに、私も意を強くしました。ぜひデフレ脱却議員連盟の新しい政策提言とあわせてお読みください。
 

『民主、刷新! ムダ全廃。景気回復。』

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コメント (8)

muchomejor:

yoshidaさん、

まだ、見ておりました。(笑)

丁寧なご回答に感謝いたします。
たいへん有益なやり取りをさせていただきました。

ありがとうございました。

yoshida:

yoshimaruさん

もう見てないかもしれないですけど・・・


(A)について
その通り。解釈が若干違いますが。
緩和的金融政策の効果を発揮するには、本来あるべき金利より低い金利に誘導して投資を喚起する事です。本来あるべき金利が高くなる状況というのは、資金不足。この状況を財政政策の拡大によって生まれる資金需要増加で埋めなければなりません。


ゼロ金利下では(C)の解釈が正しいでしょう。(B)は企業等からの資金需要がない場合には成立しません。


(E)について

国債は、償還するときに借り換えが必要なので利払いが無くなる事以外は政府の利益になりません。政府紙幣にはその必要が無いので、額面だけ政府の利益になります。永久に日銀が借り換え債も引き受けるというコミットをしなければ、額面そのまま利益になるわけではないです。

勿論、景気を抑えるために政府紙幣を買い戻す事も可能なので、実質的には新規国債の日銀の引き受けと政府紙幣発行は同じですが、財政を助けるというメッセージがより強いので効果が強いと思われます。


政府の財政を助けるという約束の無い国債の買い切りオペでリフレ的効果を出すには、国債と地方債を全て買い切るぐらいの規模が必要でしょう。1000兆円を全て買って、ようやく年間数十兆円が調達できます。今の規模では年間1兆円も財政を助けていません。


10兆円程度を追加緩和しても効果が無いのは明白です。


リスク資産の買取については、リフレ政策論的立場での見解は良く知りません。私の見解ではマクロの景気循環的な効果よりは、バブル的な効果での資金需要の喚起が狙いです。資金需要が無ければ、金融市場をいくら緩和しても当座預金が積み上がるだけです。

為替に振り回される相場が続いています。 難しいですね。 今日は勉強させて頂きました。 ありがとうございます。

yoshimaru:

yoshidaさん、私の稚拙な質問にご親切にお答えいただきまして、誠にありがとうございます。

繰り返しで恐縮ですが、経済素人ゆえ、頂いた回答の理解に自信がなく、確認のため(少し分解して)、再度お尋ねさせていただきたく、今少しお付き合いいただければ幸いです。

まずは、「そこで、政府は拡張財政を維持する必要が有ります」の件に関してですが、実はここのところが私の理解の中でぼんやりとしていたので、補足的にもう少しお聞かせいただきたいのですが、これは要するに、(A)「リフレの根幹として日銀による金融緩和に加えて政府による財政出動がペアとなっていることが必須である」ということでいいのでしょうか。
金融緩和により市場の資金量を増やすと同時に、所得再配分なり、景気刺激策なりを行なうことで、「国内における」生産→雇用・所得→消費のサイクルに乗せること、すなわち、景気回復、が可能になると。

次に、日銀の国債買切りオペに関してお尋ねします。

反リフレ派の人たち(あるいは、単にインタゲ実効性懐疑派とでも呼べるような人たち)の反論として、「国債買切りオペは、日銀から商業銀行への通貨供給手段の一つに過ぎず、商業銀行から先に通貨が流れ出すことを保証するものではない。結果として銀行に行き場の無い資金が滞留するだけである」という指摘がされることを目にしますが、国債買い切りオペの本質は、(B)「企業がお金を借りれる状況(というか環境というか)を作り出すこと→設備投資の増加を促すこと」、ではなく、(C)「政府が歳入として(払った国債利子がそのまま自分に帰ってくるだけだとしても収入は収入ということ、ですよね)景気対策等の財源に回せるようにすることにある」、と理解するのが正しい理解なのでしょうか?

加えて、(D)「国債償還時に償還した金額がそっくりそのままぐるっと回って国庫に戻ってくる(そして、やはり、景気対策等の財源に回せるになる)」との理解も併せて正しい(あるいは間違いな)のでしょうか?

また、これはすなわち、(E)「新規国債を日銀が直接引き受ける、あるいは、政府紙幣発行と影響と効果の点では同じこと」と言えるのでしょうか?

次に、株式等のリスク資産の買い取りについて、お聞かせください。

ここで株式とは、通常、企業でなく、銀行の保有株を指すのでしょうか? 
例えば、2009年2月の日銀による銀行保有株の買取再開の際には、株式の価格変動リスクを軽減することにより(あるいは、実際に銀行が売却しなくとも、日銀が買ってくれるという安心感を与えることにより)、銀行が積極的に融資を行うことを期待する措置である、とのことでしたが、(F)「ここでいう『積極的融資』とは『株式等のリスク資産の買い取り』に対してリフレ政策理論においても同様に期待する効果」なのでしょうか? そして、(G)「積極財政という援護射撃により、設備投資等の需要喚起が行われているという前提があることが条件になる」のでしょうか?

最後に、(2)の件、すなわち、国内消費への結びつき経路の件で伺います。
これも、くどいようで誠に恐縮なのですが、(H)「円の増加→円安→国内競争力の向上によって、少なくとも国内調達が可能なものに限っては、国内消費が優先されるはず」、と言い換えることは可能でしょうか?

細かい質問を多々お尋ねしましたが、回答のほうは(もしご回答いただけるのでしたら)、素人向けのレベルでもちろん結構です。

yoshimaru

yoshida:

yoshimaruさん

じゃあ、僕が勝手に。

まず、インフレターゲットを設定しただけではインフレにはなりません。現状でも、日銀は望ましいインフレ率を明言していますので、効果がないのは明らかです。

もちろん、マイルド・インフレになるという保証もありません。債権の買い切りオペ増額や、株式等のリスク資産の買い取りで市場に円を放出する必要が有ります。政府紙幣の発行も併せて行う方が良いでしょう。過去の量的緩和の経験から効果が怪しいと言われているように、これだけでも効果が有るという保証はありません。

そこで、政府は拡張財政を維持する必要が有ります。この間、債権の買い取りで発生する中央銀行の利益(国債クーポンの支払い)や、株式の配当、政府紙幣の発行額はそのまま政府の利益となり、追加的に拡張財政を行えます。この時、(1)の質問にある国内の雇用増加は担保されるかと思います。


(2)については、円の市場への放出で円不足が解消され、インフレ期待によって為替レートは減価するので、少なくともデフレ下よりは競争力が高まり、国内消費が喚起される事が予想されます。

yoshimaru:

神奈川選挙区民として、昨年の参院補選よりフォロー・応援しております。

これまで、政治・経済には全くの無頓着で、金子さんの政策提言に触れるようになって初めて「リフレ政策」を知るようになりました。

マイルド・インフレを誘導し、景気回復を達成することができるという主張に、なるほどそういう手があるのかと思うと同時に、その過程において、雇用(所得、そして、消費)の拡大を経路としている点が(無知な私が言うのもおこがましいですが)大変高く評価できるものと思います。

リフレ政策についても、独自で少しずつ勉強など始めたのですが、もともと無学者ゆえに、また、付け焼刃的なものでしかありませんので、今ひとつ解からないことがあります。
それは、
(1)企業の設備投資が国内に投下される、あるいは、雇用が国内で調達されるという担保はあるのか、
(2)国内雇用の増加が何らかの形で担保され、国内所得が増えたとしても、それが消費に回ったとき、必ず国内需要に結びつく保証、あるいは、根拠のようなものはあるのか、
という2点です。

(金子さんはお忙しいでしょうけれども、どなたかこちらをご覧のご奇特な方いらっしゃいましたら)ご教示いただけないでしょうか?

scrap:

エコカー減税がどうも財源不足で打ち切りの様なので他に何かやるのかな?住宅か?でも色々使っちゃて財源なさそうだしな・・と検索していて此処へたどり着きました。
始めてこのブログを見ました。そして始めてコメントします。

大変失礼な言い方だと思いますが「なんて正しいんだ!あの総理の党の議員なのに??あっ知らなかった私が住んでる県の議員だ」が感想です。

デフレも一定以上の年齢で少し貯金でも有ればそれはそれで良いのですが、若い人達はお先真っ暗でしょうね。

成長分野と言ったて政府が財政出動してインフラ整備しなきゃ民間も付いて来ないでしょうし。その上で日銀の協力ですね。買いオペでも何でもやらせればいいと思います。大まかに言うと第2四半期以降は民主の予算ですから真価が問われますね。頑張ってください。

yoshida:

大臣はかなり慎重なコメントをしていましたね。首相は共通の認識を持っているということですが、法改正までは乗り気ではないようで。円金利先物は殆ど変化せず、円高は変わらず。マーケットも期待していないようで・・・

世間の評価はこんなもんです。

政府として法案を出すより、伊藤隆敏氏の副総裁案を出した自民党の議員、みんなの党等と連携して、議員立法での日銀法改正を目指すのが一番近道ではないでしょうか?

政治家は占い師(エコノミスト)ではいけません。政局を分析して占い師の言う事に対応しないと。

インフレ率には粘着性があるのであまり心配しないでも良いとは思いますが、ハイパーインフレにならずとも、国債漬けの国内の殆どの金融機関は時価会計で潰れるリスクへの認知は必要です。物価連動債への転換を保証するなりして、インフレによる国債価格下落への補償準備のアナウンスメントをすれば、一気に進むかもしれませんね。

応援してます。

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このページについて

このページは「金子洋一「エコノミスト・ブログ」」の記事のひとつです。

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金子洋一プロフィール


現在、民主党参議院議員(神奈川県選出)、生活支援カウンセリング協会理事長。

これまでに、経済企画庁(現・内閣府)
OECD科学技術産業局エコノミスト
青山学院大学大学院国際マネジメント研究科兼任講師などを経る。

専門は、マクロ経済(景気)と消費者問題。詳細なプロフィールはこちら

 なお、このブログの記事内で意見にわたる部分は、私の個人的見解です。いただいたメッセージは私本人が必ず読ませていただき、今後の政策作りの参考にさせていただきます。直接ご返事を差し上げる場合もありますので、できればお名前とメールアドレスをお書きください。

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