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2008年12月12日

オバマ政権は2兆ドルをファイナンスできるのか?

 バラク・オバマ次期米国大統領は、2011年までに少なくとも250万人の雇用を生み出すことを目標として、インフラをはじめとした戦後最大の公共投資を実施する計画をこの6日に明らかにしました。

 その総費用についてオバマ氏は明らかにしませんでしたが、少なくとも5000億ドル(約50兆円)にのぼるものといわれています。また同時に、ビック3救済策についてはホワイトハウスと議会間で150億ドル(約1兆5000億円)の融資を行うとする基本的な合意がむすばれました。ブッシュ政権下では救済するのかしないのかという問題に白黒をはっきりつけようとしない典型的な問題先送りの手法です。

 すでにイラク戦争関連で1兆ドル(100兆円)の軍事費、先の金融危機対策で7000億ドル(70兆円)の融資に上乗せで、5000億ドル(約50兆円)の歳出をおこなわれようとしています。米国政府の負担は総額で2兆ドル(200兆円)を優に超えます。先のエントリーでも書きましたように、米国経済にとって今はできることは何でもしなければならない時期だという現状認識には賛成します。しかし、これらの費用をはたしてアメリカ政府はきちんとファイナンスできるのでしょうか。

 短期的な答えとしては、十分ファイナンスできそうです。というのも、今回の金融危機でお金(ドル)の最終的な行き所は、株式もダメ、社債もダメ、もちろん土地などの現物もダメという消去法により、米国国債になっているからです。

  《9日のニューヨーク債券市場で、米財務省証券(TB)3カ月物の利回りが一時マイナス圏に落ち込んだ。同利回りがマイナスになるのは史上初とみられる。財務省が同日実施したTB1カ月物の入札は、落札利回りが史上最低の0.00%となった。数ある金融商品のなかでも特にリスクが低いとされる米短期国債に資金が集中するのは、米政府・当局による大規模な対策が相次ぐなかでも、投資家にリスク回避姿勢が根強いことを示唆している。》
米短期国債利回りが初のマイナス リスク回避で資金集中


 この米国国債10年物10-YEAR TREASURY NOTEの値動きのグラフでまずわかることは、特に最近11月中旬以降から、2.5%へとこれまでの3%台後半から急激に利回りが低下していることです。これまでの膨大なイラク戦費やオバマ氏が提唱している経済対策に必要な国債発行を当然市場は計算に入れているはずですが、それでもなお金融危機の深まりに伴って米国国債の利回りは逆に低下している、つまり国債を低い金利でも買ってくれる人が大勢いるということです。(この逆の状態が国債利回りを高くしないとリスクが高くて買ってもらえないというデフォルト寸前の国債市場です)

 これらのことから少なくとも短期的な問題としては、市場参加者は今回の金融危機は、企業や銀行セクターの問題であって、ドルの信認の問題ではないと判断していることを示しています。そういった判断の結果、株式市場などの投機的な市場から、安全を求めて米国債にドルが逃げ込んでいることが金利の動きからよくわかります。

 これは繰り返しになりますが、イラク戦費はもちろんのこと、今後出てくるであろう経済対策を既に織り込んだ金利水準です。ただし経済対策に伴う国債発行が現在報道されている以上に膨大な場合はあるいは国債金利が上昇するかもしれませんが、今のところさほどの物ではなさそうです。

 では、中長期的にはどうなるのでしょうか。現在の米国債高はその大部分を株式安との裏表の現象です。株式市場に流入していたドルが、行き所を失って米国債に流入しているというのが現在の米国債市場の背景にあります。したがって株安の性質をどう評価するのかということがカギになります。

 この株安は、第一に、実体経済の問題があります。今後の米国の景気が長期(私にいわせれば2年間)にわたって悪化するだろうと予想されていることが大きな原因です。これについては特に解説は必要ではないと思いますが、付け加えていえば、今の株価が今後うち続くであろう景気の悪化を十分織り込んでいるとは私は考えていません。つまりさらなる景気の悪化がこれからも株価の下ぶれ要因になるだろうと思っています。

 第二に、貨幣的、金融的な問題があります。今後の経済情勢に対して、ひょっとするとドル紙幣が紙になるかもしれない。あるいは、1930年代の世界大恐慌の再来がありうるかもしれない。未曾有の経済情勢と考えたなら我々の行き先に黒い大きな穴がぽっこりと空いているかもしれません。しかも、これまでになかった出来事ですから、誰もどのくらいの確率でどんなことが起きるのか計算できません。この不確実性は、危険性が計算できる状態とはことなります。経済学的な用語を使えば、現在のなにがどのくらいの確率で起こるのか計算もできない状態を「不確実性がある」状態と表現して、なにがどのくらいの確率で起こるのか計算ができる状態である「リスクがある」状態と区別します。(よくこの点をきちんと論じた経済学者のナイトの名前をつけて、ナイトの不確実性といいます。)

 リスクのある状態なら、保険を掛けるなり何なりと対処の仕方がありますが、不確実性のある状態では基本的な方法はじっとするしかありません。なにせ将来なにが起こるかわからないのですから。

 企業や消費者にとって、このような時期での最良の戦略は、(望むらくは事前に)借金を返しておいて、手元に流動性の高い資産(現金や、この場合には米国国債が当てはまります)を持っておくことです。つまり今の米国債への人気は、皆がなにが将来起こるかわからないので、株式や債券を手放そうとしているためにその価格がリスクプレミアム分だけ安くなってしまっていることと同じことだと表現できます。『投資家にリスク回避姿勢が根強い』と上の引用にあることを思い出してください。どの程度の比率なのかはちょっとわかりませんのでカンでいいますが、イメージとしては下落幅の半分程度がリスクプレミアムではなかろうかと思っています。

 こういう書き方をすると将来は暗いと思われるかもしれませんが、逆に考えれば、こういった貨幣的、金融的な問題が解消されれば株価は急上昇することでしょう。それがいつになるかはわかりませんが。

 もちろん長期で見た場合、数年スパンではどうなるのかはわかりません。いうまでもなく基軸通貨の地位をドルが失うことになれば、株式のみならず米国国債も暴落することでしょうが、しかし現時点では、欧州が最終的にサブプライムローン問題でババを引いてしまったようで、ユーロがドルよりも傷んでおり、円は残念ながらそこまでの声価を市場において持っていないため、ただ今すぐに基軸通貨が変わることは予想できません。

 結論をいえば、株式市場などから引き揚げられたドルが米国債に流れ込むだろうことから、米国は2兆ドルを無事に市場から調達できることでしょう。一部ではこの国債増発を米国崩壊の原因となるなどという方もあるようですが、とりあえずそれはないだろうと思います。


 

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金子洋一プロフィール


経済企画庁(現・内閣府)
OECD科学技術産業局エコノミスト
民主党三重5区総支部長・衆議院議員候補などを経て、
現在、生活支援カウンセリング協会理事長
青山学院大学大学院国際マネジメント研究科兼任講師

 専門は、マクロ経済(景気)と消費者問題。詳細なプロフィールはこちらです

 なお、このブログの記事内で意見にわたる部分は、私の個人的見解です。

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