米国の経済情勢は、ちょうど我が国が1997年に体験したようなひどい状態にあると考えてもよさそうです。というのも、日頃は「財政出動なんていうのは景気対策として意味がない」と断言して憚らない経済学者たちもぞくぞくと財政出動を支持し始めたからです。
例をあげればブッシュ政権下でCEAの議長を務めたあのグレゴリー・マンキューですら、少し懐疑的な調子ではありますが、ケインズ政策についてWhat Would Keynes Have Done?と論じています。これにはかなり驚きました。もっとも彼も「ケインズだったらこうしただろう」といっているだけですから、彼自身が100%財政支出を支持しているわけでもないようですが。
赤字国債の発行をともなう公共投資は、公債の発行が金利を引き上げることによって円高を招き、結果的に増えた分の需要が外国に漏れる分がかなりあるなどの理由から効率的ではないと(普通の経済学の教科書にあるマンデル・フレミングの法則に従って)私も考えています。(赤字国債をともなわない公共投資には短期的な景気刺激効果はありません。)
1997年には、消費税の増税、山一證券などの破たんなど戦後最悪の経済情勢でした。ひとことでいえば景気を刺激できる手段はなんでもやるべきだというような状態でした。さらに付け加えればこの時期の前後で経済主体の行動パターンは大きく変わってしまいました。例をあげれば、企業も非正規雇用者しか雇わないようになりましたし、フリーターなどの問題も顕著になったのはこの時期からです。我が国の経済に逆戻りできない構造的な変化が生じた時代でした。財政出動の日本国内への歩留まりがどのくらいあったかは議論の余地がありますが、それでもなおやはりあの時には財政でもなんでもつぎ込むべきだった、その意味では小渕政権の判断は正しかったと考えています。
現在の米国は先にも書いたように10年前の我が国と同様の経済情勢にあると考えてよいと思います。
ちょうど米国ではクリスマス商戦が先週の金曜日から始まりました。クリスマスプレゼントをやり取りする米国では、年間の商業販売額の3割ほどがこの時期に集中し、通常の年ならレジなどのパートの求人もたくさんあるということですが、今年は求人も出ず、また、品物が売れるのは激安を売り物にするウォルマートくらいのもので、それ以外は極めて厳しいということです。米国では我が国でいうリボルビング払いや分割払いを利用する消費者が多いのですが、今年はそのような信用枠が極めて厳しくなっておりまた利息も高くなっています。このことがすでにサブプライムローン問題の直撃を受けている消費者の財布のひもをさらに固くしているはずです。
ここまで景気が悪くなればまさに10年前の日本と同じで、できることはすべてやるべきだという判断しかないと思います。幸いにして来年の1月20日からはオバマ政権に移行します。オバマ氏の経済閣僚を見ているとわが国の閣僚とは段違いに充実したメンバーです。彼らはできる限りのことはやってくれるでしょう。
それでも米国の景気は、住宅価格の調整(つまり下落)が終了する時期まで、たぶん今後2年程度は悪化を続けることだろうと思います。
米国が自国の国益を優先させた場合にとるべき政策は、短期的な政策としては国際協調財政出動を促すことです。既にいくつかの国では財政政策の発動を決めていますが、さらに一歩進めて日米欧先進国に中印を含めた発展途上国が協調して財政拡張をすることが米国の国益にかないます。そのことによって、全世界的に需要が高まれば、米国内から米政府の財政出動の効果が他国からの輸入という形で漏れてしまっても、同様に他国の財政支出が米国の輸出増加という形でながれこんで、かなりの程度相殺してくれることでしょう。
ただし、このスキームに日本がのるべきかどうかは日米関係を考慮に入れても判断に苦しむところです。というのは、我が国の場合、金融セクターがそれほど損なわれているわけではない一方で、景気悪化の影響が特に地方や中小企業という国民経済を構成する最も弱い部分に集中的に現われているために、普通のやり方の景気対策では効き目が期待できないことが予想されるからです。輸出主導の景気回復ではたしてこれらのもっとも痛めつけられているセクターに効果が及ぶかどうか、疑問です。
国内の企業が直面する短期金利が急上昇しているとの報道があります。
《世界的な金融混乱の影響から、国内金融市場で資金の逼迫(ひっぱく)感が強まってきた。企業が発行するコマーシャルペーパー(CP)の金利は上昇し、国債金利への上乗せ幅が10年前の金融危機時に並んだ。資金を銀行借り入れに依存する企業が増え、銀行はその原資の調達を加速。銀行間取引の目安となる東京銀行間取引金利(TIBOR)は10月末の利下げを帳消しにする水準に高まった。》このことは企業をめぐる資金繰りが難しくなっていることを意味します。大企業は内部留保があり、また都銀も貸出に積極的ですが、中小企業をめぐる環境はまったく異なっています。金融機関の貸し出し態度は厳しいの一言に尽きます。現状のままでは、いっそのこと一時的に中小企業に対する特別信用保障枠を設置するくらいの取り組みがなければこの年末を越すことができない中小企業がたくさん出てしまうのではないかと危惧しています。
(資金調達逼迫感強まる 銀行間金利、14日連続上昇)
ですから、ひとことでいえば在来型の財政出動はしなくてもいい、といいますか、しない方がいいと考えます。この件についてはフリーライドを決め込んで、その分のお金を中小企業につかうべきだと思うのです。
日本の景気は、今のところ私は来年の冬まで悪化を続けると考えています。今日も一時日経平均が八千円を割ったとのことですが、株価もこの程度の水準かそれ以下で推移することでしょう。
この秋の経済対策の効果は、二次補正予算もいまだに国会に提出されていないことなどからのろのろとしか出てきませんし、諸外国の金融危機のあおりも受けますから、経済はすぐには立ち上がりません。1か月前までは私も欧米でこれほど積極的な財政政策を行うべしとする意見が主流を占めるとは思いませんでしたが、この諸外国の追加的な財政政策が、円安方向へのプレッシャーとなり、輸出という形で外国の財政政策によって生み出された需要が日本にもメリットを及ぼすことでしょう。
確かに今回の円高は急速でしたが、1985年の円高不況では、景況感の悪化は確かにありましたが、鉱工業生産は落ちたというよりは横ばいでしたし、こと大企業に関しては今回もその程度ではないかと思います。繰り返しますが今後の問題は中小企業と地方、金融部門でいえば地銀、第二地銀の破たんの可能性が中心になってくると考えます。
(国内の問題は深刻ですが、米国の経済については傍観者でいることが許されるでしょう。米国の経済にどのような非可逆的な構造変化が生じるのかもじっくり観察していきたいです。これまでのようにドカンと借金をして投資や消費を行ういわばハイ・レバレッジ型経済からどのような経済に変わっていくのか。その行く先に何が待っているのか、ベビーブーマーが引退した後で生産力不足に陥らないかどうかなど興味は尽きません。)





