米国のビッグスリー(米自動車大手3社:GM、クライスラー、フォード)が総額250億ドル(2兆4千億円)のつなぎ資金の融資を米国政府に求めています。極めて巨額、しかもこれは「つなぎ」資金に過ぎません。
《ワゴナーCEOは、国内自動車メーカーが経営破綻した場合に初年度で300万人が職を失い、個人所得は1500億ドル減少、政府は3年間で合計1560億ドルの税収を失うことになる、との試算を示した。(中略)9月に議会はこれとは別の250億ドルの融資を燃費のよい車の開発の名目で決定しており、おそらくは先月の金融機関へのレスキュープラン策定を見て2匹目のドジョウを狙った動きでしょう。
自動車業界の将来見通しについて問われると、GMのワゴナーCEOは、国際的な金融危機が底入れすれば、GMの「北米での事業は好転に向かう」と証言。同社は全米自動車労組(UAW)との労使交渉で合意に達しており、来年には高速走行で最低でも燃費30マイル/ガロン(12.8キロ/リットル)を実現する20種類の新型モデルを売り出す予定だと語った。》
(自動車の死は米経済の死 ビッグスリーCEO 議会で支援要請)
さて、ビッグスリーへの資金援助などの救済策を考える上でまず大切なことは、先進国で断然安い米国のガソリン価格が持つ意味です。
秋口までの原油価格高騰をあくまでもイレギュラーなことだとして除いて考えると、米国でのガソリン価格はリッターあたり大体30円程度でした。一方で日本は100円ほどです。ネット上で拾った価格で具体的にいえば、日本が123.9円、米国が32.7円(1ドル122円:平成6年通商白書)です。為替レートにもよりますが体験からいいますと欧州は日本より2、3割ほど高かった記憶があります。日本が高いのではないのです。その背景には、先進国中でダントツの世界第3位の原油産出量と、低廉なガソリン税率があります。
これだけガソリン価格が割安となれば、そうでない日本やドイツと比較した場合、燃料を大量に消費するいわゆる「アメ車」が製品ラインナップの中心となるであろうことは予想できます。また、株主も会社を経営する取締役に対して配当を多く要求することから、経営陣は短期的な経営にはしり、とりあえず当面はよく売れるであろう小山のようなSUVやピックアップトラックばかり生産・開発する一方、省エネを意識した日本が得意なハイブリッドエンジンやコモンレールなどの次世代ディーゼルエンジン(こちらはドイツが得意)への投資はおろそかになります。(会社内に蓄積されている技術、ノウハウ、設備も大型車に特化したものであると考えられます。)
ところが近年の原油価格高騰でガソリン価格に激変が起こりました。リッターあたり30セントから40セントだった価格が、昨年の夏から1ドルを上回る価格に暴騰したのです。約3倍の高騰です。当然、リッターあたり3キロもはしらない小山のような車よりも、「3000cc以下の小型車」に人気が集中し、大型車中心のラインナップであったビッグ3の経営にほぼとどめを刺すことになりました。
さて、民間企業への公的支援を考える上での基準の一つは、苦境ははたして事業の生産性の問題なのか、資金繰りの問題なのかということです。事業としては将来性があれば資金繰りに手を貸すことくらいしても米国内のリバタリアンからの反対もさほど大きくはないことでしょう。
今、金融危機の影響で、消費者が自動車ローンを組みたくても組めず、販売が落ち込んで資金繰りが困難になっています。それはそうなのですが、同時に今後の事業の展望も極めて暗いとしかいいようがありません。
先に述べたように技術も大型車中心です。しかし米国の消費者の好みも変わりつつあります。遅まきながら米国内でも省資源省エネルギーに向けての意識も高まるでしょうし、一度小振りな(イメージとしては日本でいうスカイラインくらいですね)外国車に乗ってしまって、別に不自由がないことに気がついた米国人は多いことでしょう。また、今立ち直ったとして、これだけの石油価格の高騰は続かないとしても、1980年代から2000年頃までの極めて安い石油価格が続くとも思えません。オイルショックによるガソリン価格の高騰でクライスラーは一度苦境に陥りました。アイアコッカ氏がもてはやされたときです。その後立ち直りましたがその時の教訓は今に引き継がれてはいなかったようです。また、米国と同様にガソリン価格が安い発展途上国(特に中華人民共和国)に得意な大型車を売り込むこともとても可能であるとは思えません。米国よりも大幅にガソリン価格が安い国では大なり小なり補助金がつぎ込まれており、今後もその価格が永続するはずがないからです。
となれば、ビッグスリーには、会社組織としてこれからの時代を切り開いていくにふさわしいノウハウの蓄積が行われていて、会社が解散することによってそのノウハウが失われてしまって社会的損失になるというわけではどうもなさそうです。
では会社は解散してしまっても特に惜しくもないとして、そこに働く労働者の生活が大きな問題です。ビッグスリーが直接雇用している労働者は約24万人います。(議会での発言の300万人という計算はディーラーや下請け企業を含んだ計算でしょう。)失業の問題と並んで、米国特有の問題もあります。米国は国民皆保険の国ではありません。労使協約で労働者に対しては会社から健康保険が提供されていますが倒産すればその適用もなくなります。しかしこれらもよく考えてみれば米国内の一般の労働者と比較してより悲惨な状況というわけではありません。失業給付を、金融危機に夜不況の拡大を抑えるためという名目でこの際特別に手厚く配分することにより、その弊害は、少なくとも米国の基準で考えれば避けることができるでしょう。つぎ込んでも無駄になるであろう可能性が強い会社に250億ドルつぎ込むよりも、それよりも小さな金額で十分な失業者救済に使った方が効率的です。
仮にこういう状況でビッグスリーに公的資金を投入するとしたならば、その他大勢の国民から得た税金をつぎ込んで非効率な会社を維持することになります。国民の犠牲で民間企業を助けるわけですからよほどの理由がなければ成り立たない理屈です。
ここでビッグ3を倒産させることが米国での金融危機を悪化させないかどうか少し考えてみましょう。確かにビッグスリー傘下には自動車ローンを主な業務とするノンバンク金融機関がたくさんあるわけですが、その破綻が市場にシステミックリスクを生じさせるということなら、GM傘下のGMACファイナンシャル・サービシズが行ったようにノンバンクから銀行に業態を変更するなどさせて、それらのローン部門だけレスキュープランの一環として救済すればよいことです。
では、ビッグ3を倒産させることによってなにかメリットはないのでしょうか。現在のビッグスリーは海外の優良な自動車会社の進出の障害物になっています。米国という限られた市場だけを考えればビッグスリーが健在な間には他の自動車会社も展開がしずらい側面があります。トヨタやホンダなどがビッグ3亡き後さらに進出してくれれば、一時的に失業者は出るでしょうが、失業者よりもはるかに大きな人口に対する比率を占める米国の一般の消費者が、よりよい自動車を安く手に入れられるという意味で米国全体としての経済厚生ははるかに高まるでしょう。GMがトヨタ自動車に対して支援を要請したという報道が10月30日にありましたが、その1週間後にトヨタが来年3月期の業績予想を大幅に下方修正したというのも、裏読みをすれば、救済交渉の可能性に備えて、「こちらもあまり余裕がないからいい条件は出しようがないよ」と言えるようにするなかなかしたたかな戦略です。
失業してしまったかつてのビッグスリー労働者も、海外から進出した日本の自動車メーカーの工場に勤務した方がレイオフ(一時帰休)の可能性にもおびえることなく働くことができるのではないでしょうか。あと残るは米国人のT型フォード以来の自動車産業に対する思い入れだけですが、こればかりはソロバンではどうなるものでもありません。
ということで、いつものようにマクロ的環境から考えはじめました。結局このビッグスリーの救済に関しては、世間の大勢とおなじく、250億ドルの政府救済策をとることなく、解散(チャプター7)も覚悟しつつ、チャプター11(≒民事再生法)を適用することが米国経済にとって望ましいと考えています。
保護主義的ではないかと疑われているバラク・オバマ次期大統領にとってもこの問題は試金石になりそうです。
《オバマ氏は「いまのような経済状況での自動車産業の破綻は大惨事になる」と指摘。公的支援の必要性に言及した上で「(額面が空白の)白紙小切手であってはならない」と強調、大幅なリストラや実現可能な再建計画の策定を条件とする考えを示した。》ここでオバマ大統領が奇妙な救済策にはしったりするとこれは日本にとっても、世界にとっても大きな問題となります。
(オバマ氏、米ビッグ3「援助が必要」 大幅なリストラ条件に)
政治関連でもう一点、一部共和党筋から出ている、ビッグ3の危機は技術革新を怠った企業としての努力不足が原因だとする見方にはかならずしも同調できません。ビッグスリーは、リットル30セントという安価なガソリン価格という経済的環境に適応した成長を遂げたのです。仮に米国政府が日本のように高率のガソリン税を掛けていたとしたら、もっと燃費を意識した車作りをする、また違った企業となっていたことでしょう。政府の政策が企業の在り方に影響するよい例だと思います。
《米国のサブプライムローン問題でも、証券化やマネーゲームの行き過ぎを論難するよりも、むしろ米国政府の住宅取得に関する過剰なほどの優遇政策によって実態以上に資金が住宅市場に流入したことが原因であると考える方が建設的でむしろ本源的かもしれません。》と書きましたが、「ガソリンに税金をあまり掛けなかったために、ビッグスリーが大型車偏重になってしまったこと」は「政府が住宅取得を奨励する政策を取ったために、住宅市場に資金が大量に流入したこと」と同じく、民間主体の経済活動に政府の政策がしらずしらずのうちに影響を与えてしまい、長い年月のうちに市場からしっぺ返しを受けたということになります。
(新アメリカ大統領バラク・オバマと経済危機)





