アパグループ主催「真の近現代史観」懸賞論文に応募した元・航空幕僚長田母神俊雄氏の「日本は侵略国家であったのか」と題する論文が波紋を広げています。
今、この論文の論旨には踏み込みません。それ以前のいわば外形的なことだけから判断して今回の論文は「航空幕僚長」の肩書きをつけるには不適当であると考えるからです。
実は、今日、雑談の中でこの論文の問題について自衛隊の元佐官の方とお話をする機会がありました。必ずしも私の意見すべてに賛成いただけたわけではありませんがその時にお話しさせていただいたことを中心に記します。
第一に、史料を渉猟した形跡がほとんど見られません。
航空幕僚長というポストにありながら、雑誌などに見られるとおりいっぺんの記述しかありません。特に私が気になるのは、張作霖爆殺事件コミンテルン陰謀論や、米国の陰謀論などの定説がない問題に対する扱い方です。これらを肯定する立場もあれば、否定する立場もあります。そのどちらの立場を最終的にとるにせよ、論文の立論に際してはその扱いには慎重でなければならないと考えます。あるいは防衛省防衛研究所に勤務しているであろう制服組の後輩に個人的に照会はしなかったのでしょうか。大学生の弁論大会ならこれでいいかもしれませんが。
第二に、このような形での発言は軍人勅諭の精神に反するのではないでしょうか。
「兵力の消長はこれ国運の盛衰なることを弁へ、世論に惑はず政治に関はらず只只一途に己が本分の忠節を守り、義は山岳よりも重く死は鴻毛よりも軽しと覚悟せよ。」と軍人勅諭にあります。簡単にいえば、「日頃は淡々と腕を磨き、いざというときはにっこり笑って死んでいけ」ということです。こういう発想が時代に合わないと考える人は多いことでしょう。しかし、「世論に惑い政治に関わる」軍人が続出したことが、先の大戦の引き金を引いたのではなかったでしょうか。
今回の田母神論文は、その論旨に賛成のものから見ても反対のものから見ても明らかに「政治に関わる」ものです。もちろん軍人勅諭は、教育勅語とともに敗戦後無効とされました。しかし、田母神俊雄氏は、これはマインドコントロールであるとして勅諭や勅語を廃止した思潮に反対しているのでしょう。となれば田母神俊雄氏の行動は自家撞着に陥っているとしか考えられません。
20年以上も昔、当時著名だったある反原発派評論家が、放射性物質などについて科学的に根拠のない議論を展開し、大方の失笑を招き、反原発運動の足を引っ張ったことがありました。
今回の田母神俊雄氏は、その時の評論家と同じ役回りを演じてしまっています。根拠のない考え方は、それが政府によるものであれ個人によるものであれ正していかなければならないことはいうまでもないことです。間違った政策を正そうとして現場で努力をしている方々が大勢いらっしゃいます。そうした方ほど、この論文を読んでがっくりと肩を落としているに違いありません。今回の論文を巡る騒動は、大勢の方々の尽力に逆に水を差すものになっています。
今回の論文自体では、憲法改正などについては触れられていません。そもそも論文を発表しただけで自衛隊法や公務員法で裁くことが可能であるのか、法律の専門家ではない私にはわかりません。しかし、田母神俊雄氏を直接知る方によれば、氏は人格的に優れた方であるそうです。そうであればなおのこと田母神氏の動きは残念であるといわざるを得ません。





