民主党と国民新党が16日に日本郵政グループ各社の株式売却を凍結するための法案を成立させることをマニフェストに入れることなどで合意したということです。私もこの判断に賛成です。
そもそもこの株式売却は、郵政民営化法にある1兆円の「社会・地域貢献基金」積立スキームを実現することが大きな目的でした。しかしこの「社会・地域貢献基金」は機能しないと考えます。その理由について書きます。
まず、この「社会・地域貢献基金」についてですが、郵政民営化法や政省令で郵便局網とサービスの水準維持については配慮するとされており、特に地方でのネットワーク維持という目的のため、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の株式売却益や配当収入を積立原資とする「社会・地域貢献基金」(計1兆円、最大2兆円)を持株会社の日本郵政株式会社に積み立て、その運用益からの交付金により郵便局網や郵便事業を維持するとしています。
基金を積み立てること自体、政府与党が批判するこれまでに行われてきた内部補助そのものですから、こういう発想自体矛盾しているのですが、それはさておき、また、国会答弁によれば1兆円の基金の運用益で、1郵便局当たり年600万円の補助が二千局(合計120億円)を対象に交付される計算だとしています。しかし、現在の低金利下では1兆円の原資では年間200億円程度の利子収入ですから、二千局なら可能ですが、それだけでは大多数が赤字であると考えられている全国約2万4千の郵便局網全体を維持することは不可能です。
またそもそも1兆円という「基金」積立の目標額がいつ達成されるのかについても、昨今の株価低迷の状況下まったく不明です。株式売却について、NTTを例に取ってみましょう。NTT の政府保有株のうち、国による保有がNTT法によって義務付けられている全株式の3分の1を超える部分の売却は1986年から2005年までの期間に行われました。その売却総額は総額14兆4800億円でした。
しかしこれは、20年間という長期間にわたって行われたことと、日経平均も今よりもはるかに株価が高い期間での売却であったことを思い出さなければなりません。
参考までに、財務省は日本郵政について、完全民営化後の政府持分(3分の1)を除き残りの全株式を売却した場合5兆円の収入となると見込んでいます。これは、売却収入を各法人の純資産額をそのまま株価総額として平成19年3月時点で計算を行ったものだそうです。東証一部上場企業について時価総額は平均して純資産の約1.5倍(平成19年1月末・連結ベース)となっていることから、非上場企業の株価総額の試算方法としては特に不都合のない計算でしょう。(しかし株価売却益の大半を「基金」に組み入れたのでは民営化の意義が損なわれることも明らかです。)
さらに株価の引き下げ要因があります。ここで視点をゆうちょ銀行やかんぽ生命に転じます。郵政民営化法によれば、郵政金融2社は2017年9月末までにすべての株式が売却され完全民営化される計画になっていました。この郵政金融2社の株主の立場から見れば完全民営化までの間は郵便局や郵便事業に収益を吸い取られてしまうと考えることでしょう。具体的には、「社会・地域貢献基金」の積増しが要請されたりするといった事態も十分あり得ることです。
これから株主になろうとする人々にとって、基金の積み増しは経営上の極めて大きな不確実性であり、段階的に日本郵政保有株式が市場に放出されたとしても、きわめて大きな下振れ要因となり、現在の計算による(本来の)株価をはるかに下回る価格しか実現できなくなります。これは日本の株価低迷に上乗せとなるマイナス要因で、政府の計算に入っていません。つまり5兆円の株式売却益というのは今後景気が急回復でもしない限りとても実現できません。
さて、これまで私が書いてきたことについては、金融の専門家を擁する金融2社は、当然十分に認識していることでしょう。このため、どのようにして日本郵政グループからすみやかにかつ円満に離脱することによって他の日本郵政グループ傘下会社への内部補助を停止するかというきわめて特殊な戦略も水面下では検討されているものと覚悟しなければなりません。
とすれば、株式を売却することによってこういった郵政金融2社の動きはとどめようがなくなってしまいます。株式売却は、このような不確定要素を持ちます。
郵政民営化を小泉「改革」によくあるパターンである単なる看板の架け替えに終わらないようにするためには、このような理由で十分機能しない「株式売却に基づく基金構想」に依存することなく、郵便局の在り方、特に地域におけるネットワークの維持について腰を据えて再検討する必要があります。そうしなければ「改革」の名に値しません。
以上、ざっと書きましたのでのちに加筆訂正があり得ますが私の今の考えはこんなところです。





