・短命政権が失われた10年の原因?
産経新聞(【2007参院選】自民勝てば株価上昇?)によれば、自民党は、今回の参議院選挙において、
《「景気回復」を最大の争点に打ち出す戦術に切り替えた。スローガンは「また『失われた10年』に戻すのか!」。12日の公示後は、自民党議員が街頭で「バブル崩壊後の後遺症が10年以上続いたのは政局が流動化し、短命政権が続いたからだ」》と選挙戦で訴えていく方針だそうです。
思わず我が目を疑う論法ですが、どうも本気のようです。
例えば、自民党中川秀直幹事長は、公示日の街頭演説で、「失われた10年」に断固させてはならないとして、
《小沢さんが、平成5年に宮澤内閣の不信任案を可決させて始まった『失われた10年』と言われる経済の大低迷よりも、(民主党が勝利すれば)もっとひどい時代がきてしまう。われわれは断固そうさせてはならない》と実際に訴えています。
他にも、
《安倍晋三首相も9日の新聞各社のインタビューで「過去に参院選で与党が負けたことをきっかけに政権が不安定化し、次々と政権が代わる中で経済は失速した。これが『失われた10年』だ」と断言。》と与党幹部がそろいもそろって同様の趣旨の訴えです。こういった発想は二重の意味で誤っていると考えます。
《(自民党)中川昭一政調会長は、バブルが崩壊した海部俊樹内閣から小泉内閣誕生までの10年余りに8人の首相が交代したことを例に挙げ、「政権が安定しないと適切な経済政策を打てないので必然的に景気は後退する。しかも政局が流動化する原因はいつも参院選での敗北だ」と力説する。》
・10年間の内9年以上は自民党中心の政権
まず、誤りの第一点についてです。確かに平成3(1991)年のバブル崩壊以降、小泉内閣誕生までは、平均よりも短命の内閣が多かったのですが、細川、羽田内閣が平成5(1993)年8月から翌6(1994)年の6月までの1年足らずの期間で、それ以外は自民党を中心とした政権でした。(しかも、公明党や後の保守党はこの二つの内閣にも参加していました。)普通に考えたならば10年間の内9年間以上を自民党が中心となった政権が担っており、しかもその政権の経済政策が拙劣だったということであれば、自民党がその責任を取るべきであり、下野すべきであるというのが当然の帰結ではないのでしょうか。もちろん短期政権により政策の継続性がなかったということが仮にあったとしても、それは時の与党の能力の低さの証明にしかなりません。
このように言えば、おそらく自民党は、細川、羽田内閣の経済政策が取りわけ悪かったのだと応えるのでしょうけれども、その根拠はどこにあるのでしょうか?特に、次に述べる宮沢喜一内閣よりもその経済政策が悪かったのでしょうか。
・デフレ発生の原因は宮沢内閣の政策
バブル崩壊があのように急激となり、長引いているデフレの原因となった理由としては、以前書きましたように私は次のように考えています。
《昭和60年代に、株式、土地などの資産価格が、過剰流動性を背景にバブルを呼び起こし高騰していたことである。このバブルに対する引き締めのタイミングが必要以上に遅れたことによって、金融引き締めが必要以上に急激なものとなった。その結果、土地や株式によって構成される資産価格が急激に下落した。各経済主体はその速度に合わせた調整を行うことができなかった。》(バブル崩壊からデフレの脱却へ:リフレ政策からの観点)この急激な金融引き締め政策は平成3(1991)年11月から平成5(1993)年8月までの政権を握っていた宮沢喜一内閣の下での政策でした。
・デフレにはやはり金融政策が有効だった
さらに誤りの第二点について、中川秀直氏、安倍晋三氏、中川昭一氏の念頭にある「経済政策」とは、その発言ぶりからはどうも「赤字公債の発行を伴う経済対策のパッケージ」のようなのです。つまり、総合経済対策とか緊急経済対策といった名前の下で行われた、主に公共事業を追加することによって直接的に需要を増して、景気をよくしようとする政策です。
もちろんこのような財政の出動も、通常の不況に対しては無効ではありませんし、デフレを伴った「失われた10年」においても、政府が国債を発行することによって民間から借金をし、民間の代わりに支出をしなければ、さらに景気は悪化していたことは確かですが、これは単に緊急時の下支えにしかならなかったのではなかったでしょうか。
やはり、デフレからの脱却が見えてきたのは
《平成15(2003)年3月の就任当初は速水前総裁の路線を継承すると見られていた日銀福井総裁が実質的にリフレ政策に近い金融政策を取ったことも重要であった。財務省による度重なる円売りドル買い介入は、日銀によって非不胎化され、円の供給量は増えていった。》(バブル崩壊からデフレの脱却へ:リフレ政策からの観点)といった政府日銀の実質的な政策転換が大きかったのだと考えています。
このように、上で引用した自民党首脳の発言は、まったくピントはずれということになりますが、問題なのは、このような経済政策に関する無知は、なにも自民党に特有なことではなく、民主党を含む野党もそれを免れていないことです。
野党やマスコミから日銀に対する与党の介入に対して、日銀の独立性を侵すものだとする批判がよく行われます。しかし、日銀が組織の論理を優先して暴走しそうな時に歯止めをかけようとすることまで批判の対象にしてはなりません。
単に、政府の特定の部局だけに通用する論理で経済政策を作り出すのではなく、何らかの手段で日本全体に目配りした経済政策を行う仕組みを作り上げなければ、「失われた10年」のような経済失政が原因で生じた混乱が再びもたらされないとも限りません。






